「赤い水」が蛇口から…?!
朝、蛇口をひねったら赤茶色の水が出てきた!そんな経験はありませんか?この不思議な現象の正体は「鉄」です。でも、なぜ水道水に鉄が含まれるのでしょうか?
水道水に鉄が含まれる理由は主に2つあります。1つ目は自然由来のもの。川や湖など水源となる場所の土壌や岩石から溶け出した鉄分が含まれているためです。2つ目は配管由来のもの。特に古い建物では鉄製の水道管が使われていることが多く、長年の使用で内側が錆びて、その錆びが水と一緒に流れ出てくることがあるのです。[1]
特に朝一番や長時間使わなかった後の水に赤さが目立つのは、水が長時間管の中に滞留することで、管の内側から鉄分が溶け出しやすくなるためです。数分間水を流すと透明な水に戻ることが多いのはこのためなのです。
鉄と酸化鉄の違い〜栄養素と赤さびは別物〜
ここで大切なのは、「栄養素としての鉄」と「水道管の赤さび」は全く別物だということです。
私たちが食事から摂取すべき鉄分は、主に二価鉄イオン(Fe²⁺)や三価鉄イオン(Fe³⁺)の形で存在します。この形の鉄は体内で吸収されやすく、ヘモグロビンの合成に使われて血液中で酸素を運ぶ大切な役割を果たします。肉や魚に含まれるヘム鉄、野菜や穀物に含まれる非ヘム鉄がこれにあたります。[2]
一方、水道管から出てくる赤さびの正体は「酸化鉄」(主に三酸化二鉄:Fe₂O₃)です。これは鉄が酸素と化合した物質で、人体にはほとんど吸収されません。食事からの鉄分吸収率が10〜20%程度なのに対し、酸化鉄の吸収率はさらに低く、ほとんどが体外に排出されてしまいます。[3]
分かりやすく例えるなら、栄養としての鉄分は「みそ汁の中の栄養素」、水道管の赤さびは「みそ汁の底に残るあさりの砂」のような関係です。どちらも同じ汁の中に存在していますが、栄養素は体に吸収されて役立つ一方、砂は体内で利用されることなく排出されてしまいます。このように、食品から摂取する鉄分は体内で有効活用されますが、水道管の赤さびはほとんど体内に吸収されず排出されてしまうのです。
水道水中の鉄の健康への影響は?
健康面で気になるのは、「鉄を含む水道水を飲んでも大丈夫なの?」という点ですよね。
結論から言うと、日本の水質基準(鉄の含有量は0.3mg/L以下)を満たしている水道水であれば、健康上の問題はほとんどありません。水道水中の鉄の大部分は酸化鉄の形で存在し、体内にほとんど吸収されないうえに、含有量自体も少ないからです。
例えば、仮に基準値ギリギリの鉄を含む水道水を1日2リットル飲んだとしても、体内に入る鉄の量は最大で0.6mg程度。これは食事から摂取すべき鉄分(成人男性で1日7.0〜7.5mg、成人女性で6.0〜6.5mg)と比べるとずっと少ない量です。また、この鉄のほとんどは吸収されずに排出されるため、健康への影響はほぼないと考えられています。[4]
ただし、水質基準を大きく超える鉄分を含む水は、味や臭いが悪くなるだけでなく、大量に摂取すると胃腸障害を引き起こす可能性もあります。赤茶色の水が継続的に出る場合は、自治体の水道局に相談するとよいでしょう。
日常生活への思わぬ影響
鉄分の多い水道水の影響は、健康面だけではありません。実は様々な日常生活のトラブルを引き起こすことがあるのです。
例えば、洗濯物に赤茶色のシミがついてしまったり、お風呂や洗面台に赤茶色の汚れが付着したりすることがあります。特に白い衣類や陶器は目立ちやすいので注意が必要です。
また、鉄分が多い水は独特の金属臭(金気:かなけ)を発することがあり、飲み水としての美味しさを損なうこともあります。料理に使うと微妙な雑味の原因になることも。さらに、鉄分を含む水で作った氷は中央が白く濁ることがあり、溶かすと赤茶色の沈殿物が残ることもあります。
家庭でできる鉄分対策
水道水の鉄分が気になる場合、家庭でできる対策をいくつか紹介します。
1. 水をしばらく流してから使う
最も簡単な方法は、朝一番やしばらく使っていなかった後は、数分間水を流してから使用することです。滞留水を排出することで、鉄分の少ない新鮮な水を得ることができます。
2. 浄水器を使用する
一般的な活性炭フィルターの浄水器でも、ある程度の鉄分は除去できますが、鉄分を専門に除去する「除鉄フィルター」を使うとより効果的です。ただし、一般的な浄水器よりも高価なことが多いので、事前に確認しましょう。
3. 給水管の交換を検討する
根本的な解決策として、古い鉄製給水管を現代的な樹脂製給水管に交換する方法があります。費用はかかりますが、長期的に見れば最も効果的な対策です。自治体によっては助成金制度もあるので、検討の価値はあるでしょう。
日本の水道水の品質は世界トップクラス
心配な話が多くなりましたが、実は日本の水道水の品質は世界トップクラスです。水道局では51項目の水質基準項目について厳格な検査を行い、安全な水を供給するよう努めています。
原水に鉄分が多く含まれる地域でも、浄水場での適切な処理によって、基準値内に収められた安全な水が各家庭に届けられています。東京都水道局によれば、国の基準よりもさらに厳しい独自の水質管理を行っているほどです。[5]
とはいえ、建物の給水設備は各家庭や管理組合の管理下にあるため、特に築年数の古い建物では定期的なメンテナンスが重要です。「赤い水」が出る場合は一時的なものか継続的なものかを見極め、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。
水道水に含まれる鉄の正体と影響を知ることで、私たちの生活をより快適にし、無用な心配を減らすことができるでしょう。毎日使う水だからこそ、その特性を理解して上手に付き合っていくことが大切です。